帰省の度の別れの場面、
そう云えば、18歳で大学に上京以来、何度、九州・大牟田へ帰省して来ただろうと想う。
帰省の期間を終え、私が東京へ帰る時、そんな度ごとに、実家前で、両親がバスで発つ私を、見えなくなるまで見送っていた。
両親が亡くなってからは、一人暮らしの姉のアパートに泊まり、姉の家から、その場面。
姉の家を出て、大きい通りに出る小路の間、ずっと私の方を見て手を振る姉。最近、体調も衰え、思うように身体も動かない。
そんな姉が、家の外に出て来て、私が見えなくなるまで見送ってくれる。
大通りに出て、角で最後に手を振る時、私は、いつも照れくさく、わざと、あっさりと、サッと去る。
そして姉は、また一人暮らしの日常に返る。 寂しがり屋の姉だから、胸が張り裂けんばかりの寂しさが襲って来ているかも知れないとも想う。
そんな時、次回の帰省の時は、ちょっとふざけて、一度道路の角に隠れて、すぐまた二、三度、顔を出して、驚かしてやろうかと想う。幼児をあやす時の、"いないいない、バー"のように。 きっと、姉は、驚いて、寂しさが吹き飛んで、笑うかも知れない。
それは、寂しさを軽くする別れの時の、私らしい工夫だと想う。
それは、何だか、音楽の演奏会の終わりに、観客の拍手が促すアンコールに答えて、再登場する演奏者にも似ているのではないかと想う。 お互いに、思いっきり、名残を惜しんで、そして、別れに、ちょっと、明るさも交じり、諦めがつくように想える。