遠い日の長崎
大牟田から汽車で長崎へ、当時は6時間の長い旅だった。鳥栖で乗り換え、肥前山口、諫早、浦上、長崎へと向かう。
長崎までトンネルを数を数えるのが、子供の心にはとても愉しかった。SLの煙の匂い、ピーと云うSLの音、シューと云う蒸気の音。
今では公園に変わってしまったと云う、当時「材木町」と呼ばれていた叔母さんのアパート。大波止から大きな船で京泊へ。京泊の沖で小舟に移って降りるのが怖かった。そして、京泊の入り江の浜辺へ。小さな鮑などの貝殻を拾った浜辺。波打ち際の音。浜辺から歩いてすぐに母の実家はあった。
爺ちゃん、婆ちゃんの優しい笑顔。牛小屋の牛。海を見下ろす段々畑、西瓜の畑。台所横の石垣の穴に出入りする小さな蟹たち。その蟹のちょっとしたオレンジ色。濃い黒っぽい茶色の土の土間の色。飴色に輝く木、板の間。
母と二人で歩いた畝刈(あぜかり)の浜辺。畝刈尋常小学校に通った母。今私は、再び、京泊、畝刈の空気を一杯に吸う。
帰って来たよ。
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